課題・背景:人口減少社会における二重の構造問題
日本の建設業界は 慢性的な人手不足と高齢化 という二重の構造問題を抱えている。2024年に施行された時間外労働の上限規制(いわゆる「建設業の2024年問題」)により、人材不足はさらに深刻化した。一方、ゼネコン・工務店は若年層の入職促進に苦戦が続いており、業界全体の供給能力低下が社会課題となっている。
RIZAPグループ側にも固有の課題があった。AI活用による業務効率化が進み、グループ内に余剰リソースが生まれつつあったのだ。約4,600人の従業員を抱えるグループにとって、この余剰リソースをどう再配置するかが経営上の優先課題となっていた。RIZAP建設は、両サイドの課題を同時に解決する試みとして設計された事業である。
取り組みの経緯:chocoZAPの出店知見を外販化する発想
RIZAP建設の出発点は chocoZAP展開で蓄積された施工ノウハウ にある。グループは全国約1,800店舗以上のchocoZAPを展開するにあたり、短期間・低コストでの店舗開発を大量実施した実績を持つ。その過程で、外部の建設会社に依存せず内製に近い形で施工を管理するノウハウが蓄積された。
公表された数値によれば、chocoZAPの出店実績と比較して 費用25〜30%削減・工期約2倍のスピード を実現している。このノウハウを「グループ内のみで使う」のではなく、オフィス・美容室・クリニックといった一般企業向けの施工請負として外販することがRIZAP建設の事業核だ。なお、同事業のテストフェーズとして2025年10月からの半年間で 186件を受注し、売上高30億円 を計上した実績が報告されている。
サービス・事業の仕組み:3ステップのリスキリングプラットフォーム
RIZAP建設の中核的な仕組みは リスキリングプラットフォーム にある。元トレーナーや小売部門出身者らホワイトカラー人材を、3段階のプロセスで建設専門人材へ育成する。
第一段階は「RIZAP建設育成アカデミー」による座学と実技の組み合わせ研修だ。外部専門家を講師に招き、建設業の基礎知識と実技を体系的に習得させる。第二段階は20社以上の協力会社との連携による 現場OJT。実際の施工現場に出向させ、実践的なスキルを身につける。第三段階では施工管理技士や電気工事士といった 国家資格取得 を支援し、建設業界で通用する専門性を担保する。
計画では グループ全体の約1割に相当する最大500人 をRIZAP建設に出向させる方針で、2026年4月時点で約50人が既に出向済みだ。
成果と現状:テストフェーズの実績と課題
テストフェーズでの実績として、半年間で186件受注・売上30億円という数字は事業の実現可能性を示している。費用削減率と工期短縮の実績は、顧客獲得の訴求力として機能する。
一方で瀬戸健社長は「配置転換をネガティブに受け止める従業員も少なくない」と認めており、内部コミュニケーションが事業成否を左右する 重要課題として位置づけている。建設業経験のないホワイトカラー人材の現場適応には一定の時間とサポートが必要であり、リスキリングプログラムの質と定着率が継続的な注目点となる。
この事例から学べること
第一に、社内余剰リソースを新規事業の「原材料」として捉える視点 が有効だ。AIや自動化による生産性向上が社内に余剰人材を生み出す流れは多くの大企業で進行している。RIZAPはこれを「コスト」ではなく「展開可能なリソース」として設計した。
第二に、自社の業務で実証した知見を外販する「インサイドアウト型新規事業」 は説得力が高い。chocoZAPの出店ノウハウを外部市場に開放するモデルは、新規参入のリスクを下げつつ競争優位を持って市場参入できる構造を作った。
第三に、リスキリング設計の緻密さが事業の持続可能性を決める。短期間で現場に送り込むだけでなく、国家資格取得を含む3段階の体系的育成設計が、従業員のモチベーション維持と定着率向上に機能する。人材転換を伴う新規事業は、事業計画と同等の密度でリスキリング計画を設計する必要がある。
関連項目
参考文献・出典
- Business Insider Japan「ライザップG、500人をブルーカラーに転換。新事業「RIZAP建設」で人手不足の建設人材にリスキリング」(2026年4月)https://www.businessinsider.jp/article/2604-rizap-construction-blue-collar-shift/
- 日本経済新聞「RIZAPグループ、建設業に参入 店舗開発の知見生かす」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC143RI0U6A410C2000000/
- ITmedia ビジネスオンライン「「ホワイトカラー500人を建設職人へ」――ライザップ衝撃の発表」(2026年4月17日)https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2604/17/news033.html