課題・背景:年度予算依存の意思決定が変革のスピードを殺す
伝統的な金融機関は、 年度予算ベースの意思決定 で動いてきた。新規プロジェクトの立ち上げには前年度からの予算計画が必要で、提案から実行までに 半年〜1年 のタイムラグが生まれる構造だ。生成AIのような技術変化が指数関数的に進む領域では、このスピード感では追いつけない。
SMBCグループは、銀行・カード・証券・リースの全グループ会社で生成AI活用の機運が高まり、 約400件のボトムアップ提案 が集まっていた。しかし、個別案件として年度予算の枠内で順次処理する従来モデルでは、 組織横断の統合的な変革は実現できない という構造課題に直面した。
取り組みの経緯:CFT体制とCDIOミーティング
2025年10月、SMBCグループは個別案件のボトムアップ運用から、 経営直轄のクロスファンクショナルチーム(CFT)体制 へ転換した。CFTには 国内外150名以上、18部門以上 が参加し、組織横断で生成AI活用を推進する構造に組み替えた。
意思決定の場として設計されたのが 「CDIOミーティング」 だ。社長・各CxO(CDO・CIO・CTO等)が参加する会議体で、提案判断を迅速化する。 来年度予算待ちを排除 することで、組織全体のAI活用を加速する仕組みである。
「来年度予算待ちを排除し、組織全体のAI活用を加速する」
――SMBCグループ関係者(Biz/Zine、2026年4月)
2026年4月、専任部署 「AIトランスフォーメーション推進部」 が新設され、Managing Directorの ラジェーンドラ・マヨラン氏 が責任者に就任した。背景には、銀行・カード・証券・リースの全グループ会社にまたがる 500億円規模の生成AI投資枠 の確保がある。
サービス・事業の仕組み:CFOエージェントによる経営支援への進化
SMBCグループの戦略の中核に位置する顧客向けサービスが 「CFOエージェント」 だ。これは 顧客企業のバリューチェーン全体を支援するAIエージェント で、財務管理、資金繰り計画、投資判断、グループ会社管理などCFOが担う領域全般をカバーする設計となっている。
伝統的な銀行業務が 「資金提供と決済」 だったのに対し、CFOエージェントは 「経営判断の支援」 へと事業領域を拡張する。預金・融資という従来サービスだけでは捉えきれない顧客接点を、AIエージェントを通じて深く・継続的に確保する戦略だ。
これは単なる業務効率化のAI活用ではなく、 金融機関の事業領域そのものを再定義する 試みである。決済・融資の付加価値が下がり続ける構造に対し、経営支援サービスへの進化はSMBCグループの長期的な収益源を作る挑戦として位置づけられる。
成果と現状:金融OSへの進化が進む
SMBCグループの取り組みは、銀行・カード・証券・リースの全グループ会社のビジネスモデル変革を一体で推進する 「金融OS」への進化 として描かれている。500億円という具体的な投資枠と150名規模のCFT体制は、変革のコミットメントを社内外に明確に示すシグナルとなっている。
伝統的な金融機関の構造変革は、 意思決定スピードと組織横断の連携 という二点が鍵となる。SMBCグループの体制は、その両方を制度的に確保する設計として、業界全体の参照点になり得る。
この事例から学べること
第一に、大規模変革は「年度予算」から切り離して運営すべきだ。 SMBCグループのCDIOミーティング体制は、年度予算待ちを排除することで意思決定スピードを大幅に上げる仕組みである。指数関数的に進む技術変化に追随するには、 意思決定の構造自体 を変える必要がある。
第二に、CFT体制は「個別最適のボトムアップ」を「組織横断の統合変革」に転換する装置として機能する。 約400件の個別提案を150名のCFTで束ねる設計は、ボトムアップの活力を保ちつつ全体最適へ統合する仕組みだ。経営直轄であることが、各部門の縦割りを越える権限を担保している。
第三に、AIエージェントは「自社業務の効率化」と「顧客向けサービス」の両方の文脈で展開すべきだ。 SMBCグループの取り組みは、内部AI活用と顧客向け「CFOエージェント」を同時に進めている。AIによる事業領域の拡張は、 本業の延長線上で顧客接点を深める戦略 として設計されるべきだ。
関連項目
参考文献・出典
- Biz/Zine「SMBCグループが描く、AIによる『金融OS』への進化」https://bizzine.jp/article/detail/12834