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事業事例

サントリー カーブアウト「モカブル」 — FRONTIER DOJOから生まれたコーヒー豆まるごと食べる新食体験事業

サントリーホールディングス株式会社
飲料・食品 #suntory #carve-out #food-tech #coffee #frontier-dojo #intra-venture
事業・会社概要
事業会社
サントリーホールディングス株式会社
業界
飲料・食品
設立/開始
2025年4月
開始年
2025年
代表者
糸山彰徳(代表取締役)
資本金
シード調達総額1.5億円(2025年9月完了)
サービスサイト
mokable.co.jp
コーポレートサイト
www.suntory.co.jp

History & Evolution

2021-01

FRONTIER DOJO開始

サントリーHDがグループ社員向け社内ベンチャー制度「FRONTIER DOJO」を開始。01Boosterの出向型プログラム(IBR)と連携し、事業プランのブラッシュアップから社内ビジネスコンテストまでを一体運営する体制を構築。

2023-01

モカブル事業プラン採択

FRONTIER DOJO第2期で糸山彰徳氏がコーヒー豆まるごと食べる新食体験「モカブル」のプランを社内ビジネスコンテストで採択される。事業開発フェーズに移行。

2025-04

株式会社モカブル設立・カーブアウト独立

サントリーHDからのカーブアウトとして株式会社モカブルを設立。糸山彰徳氏が代表取締役に就任し、法人として独立運営を開始。

2025-09

シードラウンド1.5億円調達完了

ジェネシア・ベンチャーズ、サントリーHDを引受先とするシードラウンドで総額1.5億円の資金調達を完了。製品開発・販路開拓を本格化。

課題・背景:飲料大手が見出した「飲む」の次の市場

サントリーHDは国内外でビール・ウイスキー・ソフトドリンクを展開する総合飲料グループだ。コーヒー関連では「BOSS」「クラフトボス」などのブランドを通じ、缶コーヒー市場をリードしてきた。しかし缶コーヒー市場は成熟が進み、若い世代の飲用習慣がスペシャルティコーヒー・サブスクリプション・コールドブリューなど多様な方向へ分散しつつある。「飲む」というフォーマット以外でコーヒーの価値を届ける新市場の探索が、次の成長の問いとして浮上していた。

コーヒー豆は焙煎後に粉砕しお湯で抽出する過程で、豆に含まれる食物繊維・ポリフェノールの多くが残渣として廃棄される。コーヒー粕の処理は環境負荷の観点からも課題視されてきた。「豆ごと食べる」という発想は、廃棄ゼロと新食体験という二つの価値を同時に追求できる。この着眼が「モカブル」事業の原点だ。

一方でサントリー社内には、従来の飲料・食品フォーマットに収まらない提案を社内の意思決定プロセスで通しにくいという課題もあった。既存事業との相乗効果が測定しにくいニッチな食体験事業は、グループ全体の投資基準では優先度が上がりにくい。社内ベンチャー制度が「本体での事業化」ではなく「外部資金を入れた独立」を出口として設計されたことで、このジレンマへの解が生まれた。

取り組みの経緯:FRONTIER DOJOの制度設計とカーブアウトへの道筋

サントリーHDは2021年にFRONTIER DOJOを開始した。グループ社員向けの社内ベンチャー育成制度で、01Boosterが提供する出向型プログラム「IBR(Intra-company Business Realization)」と一体運営する形をとった。社員が事業プランを持ち込み、外部の事業開発プロフェッショナルとともに顧客ヒアリングと仮説検証を重ねながら、社内ビジネスコンテストに出場する。コンテストで採択された案件は事業開発フェーズに移行し、最終的には社内事業化またはカーブアウトという出口が用意される。

糸山彰徳氏は第2期(2023年度)のコンテストでモカブルのプランを採択された。コーヒー豆をチョコレートや糖衣でコーティングし丸ごと食べられる形状に加工するという製品コンセプトは、コーヒー本来の成分を余さず摂取できる点と、間食・携帯食としての利便性を両立させるものだ。採択後はFRONTIER DOJO内での事業開発を経て、2025年4月に株式会社モカブルとして独立。糸山氏が代表取締役に就任し、カーブアウトが実現した。

「社内制度を経て外部資金の調達まで伴走してもらえたことで、起業という選択肢が現実になった」

――糸山彰徳(株式会社モカブル代表取締役)

サービス・事業の仕組み:コーヒー豆まるごと食べる新カテゴリの創出

モカブルのコア製品はコーヒー豆を丸ごと食べられる形状に加工した食品だ。焙煎豆をそのままかじるのではなく、チョコレートや糖衣など食べやすいコーティングを施し、豆の風味・苦み・食物繊維・ポリフェノールをそのまま摂取できる設計になっている。「コーヒーを飲む」のではなく「コーヒーを食べる」という行為を日常に定着させることが目標だ。

事業モデルはD2C(Direct-to-Consumer)を軸とする。ECサイトでの定期購入プログラムを中心に展開し、コーヒーへの関心が高いライフスタイル層へのブランドコミュニティ形成を重視する。サントリーHDが持つ飲食・小売チャネルとの接続によるB2B2C展開も視野に入れており、コンビニエンスストアや飲食チェーンとの協業によるアクセスポイント拡大が中期的なスケール戦略だ。

カーブアウト後の資本構成は、ジェネシア・ベンチャーズ(シードVC)とサントリーHD(親会社として戦略投資)の2者が引受先となり、総額1.5億円のシードラウンドを2025年9月に完了した。外部VCが入ることで独立性と成長資金を確保しながら、親会社とのチャネル連携も維持するという設計だ。

成果と現状:食品カーブアウトのロールモデルとして

モカブルはFRONTIER DOJOから生まれた初のカーブアウト独立事例として、飲料・食品業界でのカーブアウト事例が少ない中で先例的な意味を持つ。シード調達1.5億円という規模はフードテック・食品スタートアップとして一定の評価を得ており、製品開発と販路開拓への投資を本格化させている段階だ。

サントリーにとっては、既存の「BOSS」ブランドとは異なるコーヒーの消費文脈を外部スタートアップが開拓し、将来的にグループへの還流(M&Aによる再取り込みや協業深化)を期待できるエコシステムが形成された。社内起業→カーブアウト→VC資金調達→事業成長という流れをFRONTIER DOJOが本格的に機能させたことは、後続の社員に対しても「社内起業の出口が現実にある」というシグナルになっている。

この事例から学べること

カーブアウト出口設計の明確化が、社内起業への参加意欲を底上げする。 「頑張っても本社のプロジェクトに飲み込まれる」という不安を除去するためには、制度設計の段階でカーブアウトを正式な出口オプションとして明示することが重要だ。FRONTIER DOJOはこの点で先進的な設計を持つ。

外部VCが入ることで「名目だけの独立」を防ぐ。 サントリーが単独で出資するのではなく、ジェネシア・ベンチャーズという独立系VCをリードとして迎え入れたことは、第三者による事業評価と経営自由度の確保という二つの意味を持つ。大企業カーブアウトが自社傘下の一プロジェクトに逆戻りしないための構造的な工夫だ。

「飲料の知」を「食品の新市場」へ転用する視点が事業機会を広げる。 コーヒーを「飲む」以外のフォーマットで届けるという発想は、素材・成分への深い理解があってこそ生まれる。既存事業が持つ素材知見を「異なる消費文脈」へ適用することは、大企業社内起業が純粋スタートアップに対して持つ固有の優位性だ。

関連項目

参考文献・出典

成功の鍵

1

01Boosterとの出向型連携でプロの事業開発支援を獲得

FRONTIER DOJOは01BoosterのIBR(Intra-company Business Realization)プログラムと一体運営される。社内起業家が外部の事業開発プロフェッショナルからメンタリングを受けながら、顧客ヒアリングと事業プランの高速検証を行う体制が整っている。

2

親会社サントリーがLP投資家として残存し事業継続性を担保

独立後もサントリーHDがシードラウンドの引受先として出資し、資本面でのつながりを維持している。完全分離ではなく「独立性と親会社リソース」の両立を可能にするカーブアウト設計。

3

食品大手の素材・流通ネットワークを新市場開拓に転用

コーヒー関連素材の調達ルートやサントリーが持つ飲食・小売チャネルとの接続は、独立スタートアップが単独で構築するには数年を要するアセット。カーブアウトによりこの資産を活用しながら新市場を開拓できる。

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