課題・背景:ケアプランが紙・属人・高コストのまま放置されてきた
日本の介護産業が直面する問題は、人材不足と書類業務の二重苦だ。ケアマネジャー(介護支援専門員)は利用者ごとに「ケアプラン」を作成・更新する義務を負うが、この作業はいまだに紙や個人PCへの手入力に依存している現場が多い。担当者が変われば情報が引き継がれず、施設間・事業所間での情報連携もほぼ手作業だ。
これは単なる業務効率の問題ではない。バーニングニーズの観点から言えば、「放置すれば社会インフラが崩壊する」レベルの構造問題である。少子高齢化のペースが落ちない以上、介護現場の一人あたり生産性をAIで底上げする以外の解がない。
加えて、介護事業者のDX化は医療・物流・金融と比べて一周から二周遅れている。大手ITベンダーが積極参入しにくい規制・業務複雑性の高い市場であるため、専業プレイヤーが先行者利益を確立しやすい構造でもある。
取り組みの経緯:専業プラットフォームの積み上げ
福岡市を拠点とするウェルモは、2013年の創業以来、医療介護領域に特化したプラットフォームの構築を一貫して進めてきた。汎用AIや汎用SaaSに頼らず、ケアプラン作成支援AIの「milmo plan」を中心とする「ミルモシリーズ」として機能群を積み上げ、現場特有の業務フローにフィットした製品設計を続けてきた点が特徴だ。
資金調達の歴史もその戦略を反映している。シリーズBでは東京電力パワーグリッドとみずほキャピタルから15.7億円を追加調達した。電力会社が介護テックに投資するのは異例だが、高齢化が加速する地域社会へのインフラ的関与という観点では筋の通った組み合わせである。これはオープンイノベーションの文脈で言えば、異業種の資本と顧客接点を活用して市場浸透を加速させる典型的な手法だ。
2026年6月の今回の調達は、藤田学園(藤田医科大学を運営)と東海東京フィナンシャル・ホールディングスが設立した新興投資ファンド等を引受先とする。藤田学園は医療機関の運営者として、ウェルモのシステムを「使う側」でもあり得る存在だ。医療法人が投資家として入ることで、製品の信頼性担保と医療機関への導入拡大を同時に狙える構造になっている。
サービス・事業の仕組み:ミルモシリーズの設計思想
「ミルモシリーズ」の核は、ケアプラン作成の支援AIである「milmo plan」だ。ケアマネジャーが利用者の状態を入力すると、AIが適切なプランの候補を提示する仕組みで、作成時間の短縮と品質の均一化を同時に図る。
重要なのは、「AIが決める」のではなく「AIが候補を出し、専門家が判断する」という設計になっている点だ。介護という人の生活に直接関わる領域では、自動化の範囲を誤ると現場の信頼を失う。ケアマネジャーの判断を補助するという位置付けを明確にすることで、規制上のリスクを抑えながら現場への浸透を図っている。
PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の視点から見れば、専業・現場特化・専門家補助というポジショニングは、汎用AIが入りにくいニッチを確保する合理的な戦略だ。同時に、現場への導入支援という人的サービスを伴うことで、チャズムを越えるための顧客との接点を維持している。
今回の調達資金の使途は明確だ。政府の介護事業者向け補助事業の追い風でシステム導入需要が拡大しており、この機会を逃さないために営業・導入支援の人員を125人体制へ倍増する。制度変更が追い風になるタイミングを先読みして人的リソースを積み上げるのは、シリーズCフェーズの企業にとって定石的な打ち手である。
成果と現状:累計55.6億円調達・政府需要の波に乗る
2026年6月時点での累計調達額は約55.6億円。今回の約6.8億円の追加調達により、次のフェーズとして政府補助事業への対応を軸に据えた拡大戦略が具体化した。
人員を125人体制へ倍増する計画は、ただのヘッドカウント増加ではない。導入支援という高接触型のビジネスモデルにおいて、人員の拡充は直接、導入可能な顧客数の上限に影響する。SaaSであっても介護領域では「入れて終わり」では定着しない。現場の使いこなしまで伴走する体制がそのまま競争優位になる。
福岡発スタートアップとして地方からの全国展開を実現しつつ、医療法人・金融機関・エネルギー会社という異なる属性の投資家を束ねてきた資金調達の構造も、ウェルモの戦略的な幅を示している。
この事例から学べること
- 制度変化をバックウィンドとして使う設計:政府補助事業の展開タイミングと自社のサービス展開を連動させることで、外部環境の変化を市場浸透の加速剤に変えている。規制・政策が複雑な業界では、制度の方向性を読み切って先行投資する能力がそのまま競争優位になる。
- 異業種投資家の戦略的取り込み:医療法人を株主に迎えることで、投資家と顧客が重なる構造を意図的に作っている。資本と販路の同時獲得は、高参入障壁・高信頼性が求められる領域での成長戦略として参照価値が高い。
- AI補助設計による規制リスクの回避:「AIが判断する」のではなく「専門家の判断を補助するAI」という設計思想は、医療・介護・法律など高規制領域でのAIプロダクト展開の基本的な構え方として汎用性がある。
- 地方発の全国スケールアップ:福岡を起点に全国展開を実現した点は、首都圏集中型でない事業創造の事例として参照できる。地方の高齢化課題を地方から解くというナラティブが、地域密着の医療法人との連携を引き出す磁力にもなっている。