シニアのデジタルデバイドという社会課題
日本の高齢化率は世界最高水準にあり、行政手続きのオンライン化やキャッシュレス決済の普及が進むほど、デジタル機器を使いこなせないシニア層が社会から取り残されるリスクが高まっている。
総務省は「デジタル活用環境構築推進事業」として予算を計上し、携帯ショップや公民館でのオンラインサービス利用説明会を実施するなど、国を挙げた対策が進められている。しかし、シニア世代が日常的にデジタル機器に触れる機会そのものを増やさなければ、根本的な解決には至らない。
NTTデータは、この社会課題に対して「音声」という最も自然なインターフェースで応える新規事業を創出した。それが、スマートスピーカーを活用したシニア向けサービス「ボイスタ!」である。
2018年からの長い開発期間とAlexa Smart Propertiesへの転換
ボイスタ!の構想は2018年に始まった。当初はGoogle Home Miniを活用し、見守りや防災情報配信、健康サポートなどの機能を開発していた。福島県磐梯町や北海道富良野市で自治体との実証実験を重ね、地域コミュニティの活性化や行政情報の適切な伝達に有効であることを実証した。
「NTTデータは福島県磐梯町と一般社団法人官民共創未来コンソーシアムとともに、2021年3月より磐梯町にて行政情報発信サービスの社会実験を行いました。結果、地域コミュニティの活性化や行政情報を適切に届けることに有効であると実証されました」
――磐梯町でスマートディスプレイを活用した行政情報の伝達に関する実証実験を開始(NTTデータ プレスリリース, 2021年3月)
しかし、開発の基盤としていた他社製品に仕様変更が生じ、大きな転換を迫られた。2023年、Amazonが日本でビジネスユーザー向けの「 Alexa Smart Properties」を提供開始したタイミングで、ボイスタ!はこのプラットフォームへの急きょの刷新を決断。日本上陸と同時にいち早く採用した。
2023年12月、本格サービス開始
2023年12月4日、NTTデータはAmazon Alexaを用いた高齢者とのコミュニケーションサービス「ボイスタ!」を高齢者施設・地方自治体向けに正式提供を開始した。
「ボイスタ!は、Alexaの音声インターフェースを活かした家族や職員とのコミュニケーション機能、スマートホーム家電との連携、音声による情報配信、キャラクターとの対話機能や声掛けによる利用促進、見守り機能など、さまざまなサービスの提供を行います」
――Amazon Alexaを用いた高齢者とのコミュニケーションサービス「ボイスタ!」を提供開始(NTTデータグループ, 2023年12月)
Amazon Echo Showのタッチパネル付きスマートディスプレイを端末として使用し、音声だけでなく画面表示も組み合わせた直感的な操作を実現している。スマートフォンを使い慣れていないシニアでも、話しかけるだけでテレビ電話や情報取得ができる。
自治体と金融機関への横展開
北海道岩内町では、町内高齢者の状況を十分に把握できないという課題を背景にボイスタ!を導入し、高齢者を孤立させない効率的な見守りの仕組みを実現した。 サービス利用率は90%を超え、日常的にデジタル機器に触れる機会を生み出すことでデジタルデバイドの解消にも寄与している。
2024年4月には、城北信用金庫との協業を開始した。 金融機関モデルとして国内初 のAlexa活用事例となった。
「NTTデータの音声操作型のデジタルサービスと、城北信用金庫の対面によるコミュニケーションを掛け合わせ、シニアとそのご家族の暮らしを多面的にサポートする」
――Amazon Alexaを活用したシニアの暮らしをサポートする新サービスで城北信用金庫と協業開始(NTTデータグループ, 2024年4月)
自治体向けの見守り・行政情報配信から、金融機関向けの顧客コミュニケーション支援まで。ボイスタ!は、シニアと社会をつなぐプラットフォームとして、B2G(行政向け)とB2B(法人向け)の双方で事業領域を拡大している。
この事例から学べること
第一に、社会課題起点の事業設計である。 シニアのデジタルデバイドという明確な社会課題を起点とすることで、自治体・金融機関・介護施設など複数のステークホルダーからの共感と協力を得やすくなった。新規事業の顧客開拓において「社会的意義」は強力な武器になる。
第二に、プラットフォーム転換の柔軟性である。 開発基盤の仕様変更という逆境を、 Alexa Smart Properties への切り替えで乗り越えた。5年以上の開発期間で積み重ねた自治体との実証実験の知見やサービス設計のノウハウは、技術基盤が変わっても活きている。大企業の新規事業は、短期の成果を求められがちだが、この事例は粘り強い改善の重要性を示している。
第三に、B2G起点のスケール戦略である。 まず自治体との実証実験で有効性を検証し、次に金融機関へ横展開するアプローチは、エンドユーザー(シニア)から直接課金するのではなく、法人・行政を顧客とするB2B/B2Gモデルとして合理的な拡大戦略である。


