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用語集

プレモーテム(事前検死)

プレモーテム(Pre-mortem / 事前検死) とは、新規事業やプロジェクトの着手前に「このプロジェクトはすでに失敗した」という仮定を置き、その失敗原因を逆算して洗い出す思考技法である。認知心理学者のGary Kleinが1989年に体系化し、後にHarvard Business Review(2007年)での論文「Performing a Project Premortem」で広く普及した。通常の楽観的な計画策定に比べ、約30%多くのリスク要因を特定できることが実証研究によって示されている。

定義と起源

「プレ(Pre-)」は「事前」、「モーテム(mortem)」はラテン語で「死」を意味し、医学の「ポストモーテム(死後解剖・事後検証)」に対置される概念として命名された。プロジェクトが完了した後ではなく、開始前の段階で失敗を想定して原因を分析する逆算型の思考法である。

KleinはNASAや軍の意思決定研究から「人は失敗を想像する方が、不確実な未来を正確に予測できる」という洞察を得た。この知見を「プロスペクティブ・ヒンドサイト(Prospective Hindsight)」と呼び、プレモーテムの認知的基盤とした。

実施手順

プレモーテムは以下の手順で行う。所要時間は標準的なセッションで60〜90分を目安とする。

フェーズ1:シナリオの設定。 チーム全員に「このプロジェクトを全力で実行したが、1〜2年後に完全に失敗した」という仮定を共有する。楽観主義バイアスを強制的に解除するため、「もし」ではなく「失敗した」と過去形で伝えることが重要だ。

フェーズ2:個人記述。 各参加者が2〜5分で、失敗の原因として思い浮かぶことをすべて書き出す。この段階は個人作業とし、他者の意見を聞かないことで独立した思考を確保する。

フェーズ3:共有と整理。 ファシリテーターがひとりずつ失敗原因を読み上げ、ホワイトボードに分類・整理する。発言者への批判はせず、すべての意見を記録する。

フェーズ4:対策立案。 特定されたリスクのうち、発生確率と影響度が高いものについて、実行計画への反映方法を議論する。計画の修正・撤退判断基準の設定・担当者の明確化を行う。

なぜ通常のリスク分析より有効か

通常のリスク分析では、計画への投資感情(サンクコスト)と社会的圧力が、ネガティブな見通しの発言を抑制する。特に上位者が主導するプロジェクトほど、反対意見を口にしにくい「集団思考(groupthink)」が生じやすい。

プレモーテムはこの心理的ブロックを「失敗した前提」という共有フレームで取り除く。失敗した理由を探す行為が、会議の目的そのものになるため、普段は口にできない懸念を安全に表明できる。Kleinの研究では、この設定の変化だけで特定できるリスク要因が約30%増加した。

また、実行後のポストモーテムとの併用により、予測精度の継続的改善が可能になる。計画時の想定リスクと実際の失敗原因を照合することで、組織の予測能力自体を鍛えるラーニングループが生まれる。

新規事業開発での活用局面

プレモーテムが特に効果を発揮するのは、以下の局面である。

事業化承認前のゲートレビュー。 ステージゲートの各ゲートで全面否決ではなく条件付き通過を決断する場面で、プレモーテムによる追加リスク特定が修正条件の設定精度を高める。

新規事業チームの初期キックオフ。 事業構想段階でのプレモーテム実施は、チームが楽観的すぎる前提を共有したまま作業を進めることを防ぐ。特に大企業内の新規事業チームでは、経営層への忖度がリスク情報の伝達を歪めることが多く、プレモーテムはこの情報非対称を是正する構造的な場として機能する。

パートナーシップや合弁事業の立案時。 複数組織が参加するプロジェクトでは、各組織が異なる前提を持ちながら合意に達しているケースがある。プレモーテムを通じた前提の明示化が、後の認識齟齬を予防する。

限界と注意点

プレモーテムはあくまで「想定できるリスク」の洗い出しツールであり、完全な予測不能事象(ブラックスワン)への対処には限界がある。また、ファシリテーターが誘導的な質問をすると、特定の懸念だけが浮上し、かえって重要なリスクが見落とされる逆効果も生じうる。

チームメンバーが真剣に「失敗シナリオ」を想像する心理的安全性が確保されていない環境では、形式的な実施に終わりやすい。プレモーテムの実施前に、意見を安全に表明できる場の設計が前提となる。

関連項目

参考文献・出典

  • Gary Klein, “Performing a Project Premortem,” Harvard Business Review, September 2007
  • Gary Klein, Sources of Power: How People Make Decisions, MIT Press, 1998
  • Daniel Kahneman, Thinking, Fast and Slow, Farrar, Straus and Giroux, 2011(プロスペクティブ・ヒンドサイトの概念整理)
  • Rita McGrath & Ian MacMillan, The Entrepreneurial Mindset, Harvard Business School Press, 2000
  • ONES.com「プレモーテム分析:Gary Kleinのプロジェクト管理手法で失敗を事前に防ぐ」https://ones.com/ja/blog/premortem-analysis-gary-klein-5/

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