人物概要
野尻真宏は、NTTドコモグループの社員として在籍中に同社の社内起業プログラム「docomo STARTUP」に参加し、パイロット採用市場のデジタル化という課題に取り組んだイントレプレナー(社内起業家)だ。
NTTドコモを通じた出資と、起業家支援ファンド千葉道場からの出資を受け、2026年3月に株式会社Aeromuse(エアロミューズ)を設立した。同年5月1日に事業を正式開始し、docomo STARTUPから輩出された10社目のスタートアップの代表を務める。
事業の着眼点
野尻が着目したのは、航空業界が抱える「パイロット採用のアナログ構造」という課題だ。
2032年には世界で約8万人のエアラインパイロットが不足すると予測されており、各エアラインは中途採用への依存度を高めている。しかしパイロットのキャリア証跡である「ログブック(飛行記録)」はアナログ管理が慣行であり、飛行時間・保有ライセンス・機種限定といった専門情報の確認に時間がかかる構造が採用プロセスを長期化させていた。
HRテック分野のプラットフォームは数多く存在するが、航空業界固有の専門情報(機種・免許種別・飛行時間)を扱えるドメイン特化型は存在しない。このギャップが事業機会として明確に認識できる点が、野尻がこのテーマを選んだ背景にある。
開発したサービス「HUD SONiC」
Aeromuse(エアロミューズ)が提供する「HUD SONiC」は二層構造のサービスだ。パイロット向けにはフライト記録の手間を80%軽減する無料ログブックアプリを提供し、キャリアデータをデジタルで蓄積・管理できる環境を整える。エアライン向けには、蓄積されたデータをもとに要件に合致するパイロットへのダイレクトアプローチ機能を提供する。
大企業スピンアウト起業家として
野尻の起業は、docomo STARTUPのSTARTUPコースが設計した「外部資本を獲得して早期独立する」経路を活用した事例だ。事業撤退時の元会社復職保証と外部資本調達成功時の報奨金300万円という制度設計が、大企業正社員が本格的な起業に踏み出すリスクを引き下げた。
資本構成はNTTドコモと千葉道場の共同出資で、親会社の信用力と外部投資家のネットワークを組み合わせた起業形態は、純粋なゼロイチ起業とは異なる「大企業発スタートアップ」の特徴を体現している。
投資家側の千葉道場ファンド(千葉功太郎)は、自身がパイロットライセンスを持ちペーパーのログブックで飛行記録をつけてきた経験を持つ「当事者投資家」として参加。「パイロットのログブックのデジタル化はニッチに見えるが、採用市場と結びついていなかった本質的なキャリアデータだ」と評しており、業界固有の参入障壁の高さと事業機会の本質を同時に指摘した観点として注目される。
docomo STARTUP から10社目のスピンアウトとなるAeromuse誕生は喜ばしい。野尻が持つ航空採用の現場知見と技術力が、世界的なパイロット不足という業界課題の解決につながる可能性を持つ。
― NTTドコモ 事業開発担当(2026年5月12日 プレスリリースより)