概要
MAG!C(マジック)は、三井不動産が 2018年に創設した事業提案制度 である。「MAG!C」という名称には、「社員一人ひとりのアイデアが、マジックのように新しい事業を生み出す」という想いが込められている。
制度の骨格は明快だ。 「社員の『妄想』を起点に、会社を巻き込み『構想』『実現』へと昇華させる。起案者が事業責任者となり、自ら提案した事業を推進する」。この「言い出しっぺが最後まで責任を持つ」構造が、MAG!Cの根幹にある。
初年度の2018年には約100件の応募があり、厳しい審査を経て6件まで絞り込まれた。制度開始から約3年で 累計5件の新規事業 が誕生しており、大企業の事業提案制度としては高い事業化率を誇る。
「MAG!Cの対象分野は、あまり絞らないようにしている。ぶどう栽培でもOK」 ――日経クロストレンド(日経クロストレンド)
プログラムの仕組み
応募から事業化までのプロセス
応募期間は 毎年3月から6月までの3カ月間。締め切り後に1次審査が始まり、2次審査、3次審査と段階的に選考が進む。当初は三井不動産の社員のみを対象としていたが、現在は グループ会社の社員にも対象を拡大 し、広くアイデアを募っている。
最終審査を通過した起案者は、現所属部署から ビジネスイノベーション推進部に異動 し、専任で事業化に取り組む。実証実験やテスト販売を自ら主導し、事業としての成立可能性を検証する。「兼務」ではなく「異動」という形を取ることで、中途半端な関わり方を排除している点が特徴的だ。
デザイン思考の導入
事業アイデアのブラッシュアップには、 デザイン思考 の手法が取り入れられている。外部パートナーであるi.labと連携し、顧客インサイトの発掘からプロトタイピングまで、体系的な方法論で起案者を支援する。不動産デベロッパーの社員が、畑の異なるビジネスに挑む際の「思考のフレームワーク」として機能している。
分野を制限しない自由度
MAG!Cの大きな特徴は、 提案テーマに制限を設けていない 点である。不動産に関連する事業はもちろん、農業、モビリティ、防災など、およそ不動産会社とは縁のなさそうな領域からも応募を受け付ける。この「何でもあり」の姿勢が、社員の発想の枠を取り払い、結果として「ぶどう栽培」のようなユニークな事業を生み出した。
代表的な成果・卒業プロジェクト
GREENCOLLAR ——不動産会社が「農家」になる日
MAG!Cから生まれた最も象徴的な事業が、社内ベンチャー 「GREENCOLLAR」 である。2019年12月に設立され、「しぜんと、生きる。」をビジョンに掲げる。
事業内容は 日本品種の生食用ぶどうの栽培。北半球と南半球の季節ギャップを活かし、通年で高品質なぶどうを生産・販売するという大胆なビジネスモデルだ。不動産デベロッパーが農業に参入するという意外性が注目を集めたが、「土地の価値を最大化する」という不動産の本質に立ち返れば、農地もまた「不動産」であるという明快なロジックがある。
&Resilience ——企業の「事業継続力」を支える
企業向け事業継続力強化支援サービス 「&Resilience(アンドレジリエンス)」 もMAG!C発の事業である。災害大国・日本において、企業のBCP(事業継続計画)の策定から実行支援までをワンストップで提供する。三井不動産が長年培ってきた 防災・減災の知見 を、サービスとして外販する発想から生まれた。
MaaS領域の3事業
モビリティ・MaaS領域では、 MIKKE!、HUBHUB、&MOVE の3事業がリリースされた。「テクノロジーで街・人・サービスをつなぐ」という構想のもと、三井不動産が開発・運営する街やビルにおける移動体験を革新する取り組みが進んでいる。
このプログラムの特徴・差別化
1. 「産業デベロッパー」への進化宣言
MAG!Cは、三井不動産が掲げる 「産業デベロッパー」 というビジョンと密接に結びついている。不動産の開発・管理にとどまらず、新たな産業そのものを創出する企業へと進化する——その実験場がMAG!Cなのである。
2. 同一企業内での「CVC」と「提案制度」の棲み分け
三井不動産は、外部スタートアップとの共創を担う31VENTURESと、社内からの事業創出を担うMAG!Cを 並行運営 している。外発的イノベーション(オープンイノベーション)と内発的イノベーション(社内起業)を、制度として明確に分けながらも相互に連携させる体制は、日本の大企業のモデルケースと言える。
3. 「脱・大企業病」の処方箋
創業から約80年の歴史を持つ三井不動産にとって、MAG!Cは意識的な 「脱・大企業病」 の取り組みでもある。「言われたことをやる」から「自ら考え、提案し、実行する」へ。社員のマインドセットを変革する装置として、新規事業の成否以上に、組織文化への波及効果が重視されている。


