課題・背景:アイデア募集の先で止まる社内起業
社内ベンチャー制度は、社員から事業アイデアを集める入口を作るだけでは動かない。手を挙げた社員が「何を解決したいのか」を自分の言葉で語れなければ、アイデアは企画書の整った形にはなっても、事業として進める推進力を持ちにくい。
サントリーホールディングスは2021年から、社員が新規事業にチャレンジする社内ベンチャー制度「FRONTIER DOJO(フロンティア道場)」を運営している。目的は、創業精神である「やってみなはれ」を体現する組織風土を強め、企業の持続的な成長につなげることだ。
取り組みの経緯:2026年9月1日の発表
株式会社kasanariは2026年9月1日、サントリーホールディングスの社内ベンチャー制度「FRONTIER DOJO」に関連する新規事業創出の取り組みを支援すると発表した。
kasanariは2022年12月の設立で、代表取締役は坪田恭平氏。所在地は武蔵野美術大学の市ヶ谷キャンパス内にあり、「Business × Art」の視点で新規事業開発の支援、組織開発、ブランド発信を手がける。
サービス・事業の仕組み:WILLを起点に、AIで広げ、人が絞る
kasanariの支援は、社員のWILL(実現したいことや問題意識)を出発点に置く。同社の発表によると、内容は次の3点だ。
- 探索と整理: 社員のWILLを起点に、事業アイデアを探索し、整理し、具体化する
- AIの活用: AIを使い、多様な新規事業アイデアを生成・探索する
- 伴走: 選ばれたアイデアを本人の問題意識と結びつけ、事業価値を具体化する段階まで一緒に進める
kasanariは、この進め方を「AIで可能性を広げ、人のWILLで絞り込み、自分の言葉で事業価値を伝えるプロセス」と位置づけている。同社の事業創出プログラム「VALUE curation」も、「WILLとAIの探索を掛け合わせる」ことを軸にしており、サイトでは「AIが可能性を拡げ、人が進む方向を決める」と説明されている。
取り組みの土台になる「FRONTIER DOJO」の仕組み
FRONTIER DOJOは、社員が事業アイデアをエントリーし、社外の起業家によるメンタリングで磨いていく制度だ。サントリーホールディングスの2023年4月の発表では、段階が次のように定められている。
- エントリーした時点で「白帯」に認定される
- 選抜を経るごとに「茶帯」「黒帯」へ昇格する
- 最終選抜に合格すると「免許皆伝」と認められる
- 免許皆伝の後は、立案者本人が事業化に取り組むことが必須になる
免許皆伝を得た社員は、FRONTIER DOJO事務局や社外団体の支援を受けながら事業化を進める。第1期の免許皆伝者のなかには、新会社の設立や商品開発へ進んだ例がある。当サイトでも、制度から生まれた事例としてサントリー モカブル カーブアウトを取り上げている。
この事例から学べること
アイデアの数をAIで増やし、選ぶ基準を人の意志に置く。 AIは案を広げる作業に向く。ただ、どの案を事業にするかは、誰がそれを自分の問題として引き受けるかで決まる。kasanariの設計は、この役割分担を明確にしている。
立案者本人が事業化に取り組む制度には、本人の動機を言葉にする工程が要る。 FRONTIER DOJOは免許皆伝後の事業化を本人に課している。そうであれば、WILLの言語化を選抜の前に支援することには意味がある。社内起業の入口で「本人の理由」を固めておくことは、イントレプレナーを支える設計の一部といえる。
今回の発表は支援の方針と進め方を示すもので、参加人数や事業化の件数は公表されていない。 成果を判断するには、今後の選抜結果や事業化の実績を待つ必要がある。