大企業の「自社実践」が新規事業の種になる構造
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、定型業務をソフトウェアロボットで自動化する技術である。2010年代後半から日本企業の間でも導入が進んだが、多くの企業が「導入したものの活用できない」という壁に直面していた。
RPAの導入はツールの購入で完了するものではない。業務プロセスの分析、自動化対象の選定、ロボットの設計・開発、運用ルールの策定、そして全社展開に至るまで、組織的な取り組みが求められる。特に中堅・中小企業にとっては、社内にRPAの専門人材がいないことが最大のボトルネックであった。
コニカミノルタグループは2017年から自社でRPAによる業務改革を推進し、 年間約5万時間 の業務削減を実現していた。この「自社実践」の蓄積が、外販サービスとしての新規事業に転換される契機となった。
18年の営業マンが新規事業に挑む
RPA導入支援サービスの立ち上げを主導したのは、藤塚洋介である。1996年にミノルタ事務機販売(現コニカミノルタジャパン)に入社し、 18年間パートナー営業 に従事。中小企業や地方自治体を主な顧客として、営業教育やマネジメント支援を担ってきた。
「18年間、お客様の業務課題を現場で見続けてきた。RPAは技術の話ではなく、業務の話。営業経験があるからこそ、お客様の本当の困りごとを理解できる」
――新規事業で「理想の世界観を実現する」多動的イントラプレナー(Incubation Inside)
2014年に本社へ異動後、藤塚は新規事業開発に携わり始めた。複数の新商品販売で失敗を経験する中で、スタートアップや起業家との交流を深め、2018年には複業で wayslinks株式会社 を設立。社外での起業経験が、社内での新規事業開発に活きることとなった。
3人で回すスタートアップ型組織
2019年10月、コニカミノルタジャパンはRPA導入・運用アドバイザリーサービスを正式にローンチした。特徴的なのは、 メインの3人 が企画からサービスの実装、顧客へのマーケティング活動、アフターフォローまで全てに責任を持つ体制である。
大企業の新規事業でありながら、意図的にコンパクトな組織を維持した。意思決定のスピード、顧客との距離の近さ、チームメンバーの当事者意識を重視し、スタートアップのような機動力を組織内で確保した。
サービスの差別化ポイントは明確であった。多くの企業が「個人のパソコン作業の自動化」に留まる中、コニカミノルタジャパンのサービスは 「組織横断的な業務自動化」 を目指す。導入支援だけでなく、運用体制の構築や全社展開のコンサルティングまで一貫して支援する。
さらに、AI-OCRとRPAを組み合わせた 「Robotics BPO for Smart Work」 も展開。FAXでの注文書やアンケート用紙などの紙データをクラウド上にアップロードするだけで、AIが自動認識しロボットがデータ入力を行うハイブリッド型サービスである。
この事例から学べること
第一に、「自社実践」が新規事業の最強の原資であるということだ。 コニカミノルタグループが自社で積み上げた年間5万時間の業務削減実績は、顧客に対する何よりの説得材料となった。大企業が持つ「自社で使ってみた」経験は、外販サービスにおける信頼の源泉であり、スタートアップには真似できない競争優位性である。
第二に、営業出身者が新規事業を担うことの強みである。 藤塚の18年間の営業経験は、中小企業の業務課題に対する深い理解をもたらした。技術者主導の新規事業が「技術ありき」に陥りやすいのに対し、営業出身者は「顧客の困りごとありき」で事業を構想できる。イントラプレナーの適性は、技術力だけでは測れない。
第三に、大企業内で「3人チーム」を維持する意志の重要性である。 新規事業が軌道に乗り始めると、組織は人員を増やしてスケールさせようとする。しかし、初期段階では少人数チームの機動力こそが最大の武器である。コニカミノルタジャパンのRPA事業は、あえてコンパクトな体制を維持することで、顧客との距離感と意思決定速度を保ち続けた。