Wiki by IntraStar
事業会社

コニカミノルタ

コニカミノルタ ロゴ

Konica Minolta, Inc.

精密機器・IT大手。「出島と本島の対話」を軸に、仮説検証とコーポレートフィットを両立する新規事業開発を実践。

企業概要
企業名
コニカミノルタ
業種
精密機器 / IT
所在地
東京都千代田区
創業
1873年(前身: 小西屋六兵衛店)
公式サイト
www.konicaminolta.com/jp-ja

新規事業の歴史

History & Evolution

1873

前身「小西屋六兵衛店」創業

写真材料商として創業。以降150年以上にわたり、写真フィルム・カメラ・複合機と事業を転換し続ける

2006

カメラ・フォト事業からの撤退

デジタル化の波を受け、祖業であるカメラ・フォト事業から撤退。業容転換の象徴的な決断

2014

Business Innovation Center(BIC)を世界5拠点に設立

シンガポール・ロンドン・シリコンバレー・上海・日本に人材を配置し、常時20以上のプロジェクトを推進

2017

米Ambry Genetics社を買収。Kunkun Body発売

精密医療分野に参入する大型M&Aを実施。同年、世界初の体臭チェッカーKunkun Bodyを発売

2020

画像IoTプラットフォーム「FORXAI」提供開始

画像認識技術を核にしたエコシステム構築に着手。パートナー企業は90社超に拡大

2023

BIC組織を技術開発本部に統合。中期経営計画で事業ポートフォリオを再構築

9年間の新規事業創出組織を統合。事業を4カテゴリに分類し「選択と集中」を推進

2024

Ambry Genetics社をTempus AIに売却(600百万米ドル)

「ベストオーナー視点」で精密医療事業を譲渡。2025年度を「Turn Around2025」と位置づけROE5%を目指す

コニカミノルタの新規事業の歴史 — 時系列で全体像を把握

コニカミノルタ は、1873年創業の写真材料商「小西屋六兵衛店」を前身とする 150年超の歴史 を持つ企業である。フィルムカメラ事業からの撤退(2006年)、複合機市場のペーパーレス化と、コア事業の再定義を繰り返してきた「業容転換」の企業史そのものが、同社のイノベーションDNAを物語る。

2014年、同社は新規事業創出のための専門組織 「Business Innovation Center(BIC)」 を世界5拠点に設立した。シンガポール、ロンドン、シリコンバレー、上海、日本の各地に人材を配置し、 常時20以上のプロジェクト を推進する体制を構築した。

「コニカミノルタは新規事業創出へ世界5拠点に本社人材送り込む」

――コニカミノルタ、新規事業創出へ世界5拠点に本社人材送り込む(ニュースイッチ/日刊工業新聞, 2015年10月)

BICは2023年3月に組織としては技術開発本部に統合されたが、その 9年間で生み出された事業や知見 は現在も同社の事業基盤に組み込まれている。同時期に策定された中期経営計画(2023〜2025年度)では、事業を「強化事業」「収益堅守事業」「非重点事業」「方向転換事業」の4カテゴリに分類し、過去から決別する姿勢を鮮明にした。

新規事業戦略の特徴

コニカミノルタの新規事業戦略は、「出島と本島の対話」「プラットフォーム戦略」「ポートフォリオ再構築」の3つの柱で構成される。

第一に、塚原俊之が率いた新規事業推進チームは、 「出島住民は、本島の人に理解されるビジョンを描いて、対話を重ねていく」 を原則とした。経営層にはファクトベースの説明、既存事業部門には価値が固まってからの対話、顧客には提供価値の変化の確認と、ステークホルダーごとにコミュニケーション戦略を使い分けた。この出島戦略の実践知は、多くの大企業の新規事業部門にとって参考になる。

第二に、 画像IoTプラットフォーム「FORXAI」 によるエコシステム構築がある。2020年11月に発表されたFORXAIは、IoT Platform・Imaging AI・Edge Deviceの3要素で構成され、農業、医療、介護、工場、店頭マーケティングなど社会の現場に展開中である。 パートナー企業は90社を超え、画像認識技術を核にしたオープンイノベーションを推進している。

「コニカミノルタが保有するイメージング技術をベースに最新のIoT、AI技術を融合。お客様やパートナーとともに社会のDXを加速させる」

――画像IoTプラットフォーム「FORXAI」の提供を開始(コニカミノルタ プレスリリース, 2020年11月)

第三に、 中期経営計画に基づく事業ポートフォリオの戦略的再構築 がある。強化事業としてセンシング、機能材料、IJコンポーネント、産業用光学部品を位置づけ、非重点事業からは撤退する意思決定を明確化した。

「過去から決別し、戦略的新規事業の位置づけを見直し、事業の選択と集中に取り組む」

――新中期経営計画(2023〜2025年度)(コニカミノルタ 統合報告書, 2023年)

代表的な事業事例の深掘り

KOTOBAL(コトバル) — AI翻訳×プロ通訳のハイブリッド多言語サービス

「KOTOBAL(コトバル)」 は、BICの活動から生まれた代表的な事業化案件である。AI翻訳とプロ通訳のハイブリッド型多言語通訳サービスで、 最大32言語 に対応する。2020年に販売を開始し、 全国の自治体約100カ所に導入 された。

「東京都の施設38カ所に多言語通訳サービス『KOTOBAL』が導入されました」

――東京都の施設38カ所に多言語通訳サービス「KOTOBAL」が導入(PR TIMES, 2024年6月)

外国人住民の増加という社会課題に対して、自治体窓口という具体的な利用シーンにフォーカスした点が成功の要因である。タブレット1台で導入できる手軽さと、AIでは対応しきれない場面でプロ通訳に切り替わるハイブリッドモデルが、現場の信頼を獲得した。

Kunkun Body — 世界初の体臭チェッカー

Kunkun Body は、BIC Japanから生まれた世界初の体臭測定ソリューションである。複数の半導体ガスセンサーとAIのニューラルネットワークを組み合わせ、「汗臭」「ミドル脂臭」「加齢臭」の3種類の体臭と口臭を検知し、スマートフォンアプリに数値で表示する。

2017年にクラウドファンディングで先行販売を開始し、2018年に正式発売。BICのミーティング中の雑談から着想が生まれたという開発経緯は、新規事業の種が「日常の気づき」にあることを示している。塚原俊之が実践した 「人力MVP」のアプローチ、つまり大きな投資の前に顧客価値を実証する手法の好例でもある。

Ambry Genetics — 大型M&Aの挑戦と撤退

精密医療(プレシジョン・メディシン)分野 への参入は、コニカミノルタの最も大胆な新規事業投資であった。2017年に米国の遺伝子検査企業 Ambry Genetics社 を買収し、Konica Minolta Precision Medicine, Inc.を設立した。

しかし2024年11月、Ambry Genetics社は Tempus AI社に600百万米ドルで譲渡 された。継続的な研究開発投資の必要性を考慮し、 「ベストオーナー視点」 で第三者資本の活用を選択した判断である。

「プレシジョンメディシン事業のさらなる成長に向けて、今後も継続的に研究開発投資が必要であることなどを考慮し、ベストオーナー視点で第三者資本の活用の検討を進めてきた」

――連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ(コニカミノルタ プレスリリース, 2024年11月)

キーパーソンと組織文化

コニカミノルタの新規事業推進において、塚原俊之の果たした役割は極めて大きい。BICの運営からKOTOBALやKunkun Bodyの事業化まで、「出島と本島の対話」を体現するキーパーソンである。

塚原が実践した方法論の核心は、 ステークホルダーごとのコミュニケーション戦略の使い分け にある。経営層には事実と数字で語り、既存事業部門には提供価値が固まった段階で対話を始め、顧客には価値の変化を常に確認する。この「対話の設計」は、イントラプレナーが組織内で新規事業を推進する際の実践的な指針となる。

コニカミノルタの組織文化は、150年の歴史の中で幾度もの業容転換を経験してきたことに根ざしている。写真フィルムからカメラへ、カメラから複合機へ、そして複合機から画像IoTへ。 「変わること」自体が企業のDNA に組み込まれているともいえる。しかし同時に、大企業としての意思決定の遅さや、新規事業への投資判断の難しさという課題も抱えている。

成功と失敗から学べること

コニカミノルタの事例から学べるのは、新規事業の「成功」だけでなく 「撤退」の意思決定もまたイノベーション経営の重要な要素 であるという点だ。Ambry Genetics社の売却は、精密医療という成長市場に参入しながらも、自社の競争優位性を冷静に見極めた結果の判断である。事業を手放すことが事業そのものの成長につながるケースもある。

KOTOBALの成功とAmbry Geneticsの売却は、両利きの経営の難しさを端的に示している。自社技術の延長線上にある事業(KOTOBAL、FORXAI)は比較的成功しやすいが、全く異なる領域への大型M&A(精密医療)は、技術力だけでは克服できない業界固有の課題に直面する。

BICの9年間の活動と統合の判断からは、 新規事業専門組織の「寿命」 についても示唆が得られる。出島型の組織は立ち上げ期には有効だが、事業が育った後は「本島」に統合するタイミングの見極めが重要である。BICで培われた知見は技術開発本部に引き継がれ、FORXAIのパートナーシップモデルとして進化している。

今後の展望

コニカミノルタは 2025年度を「Turn Around2025」 と位置づけ、再び成長軌道に戻す基盤の構築を目指している。 ROE5% の達成を数値目標に掲げ、事業の選択と集中を加速させる方針だ。

強化事業として位置づけられたセンシング、機能材料、IJコンポーネント、産業用光学部品の4分野は、いずれもコニカミノルタの光学技術・画像技術という強みを活かせる領域である。FORXAIのパートナーエコシステムの拡大も、画像IoT分野での競争力を高めるカギとなる。

Ambry Genetics売却で得た資金をいかに再投資するか、そして複合機市場のペーパーレス化にどう対応するかが、次の10年の命運を分ける。150年の業容転換の歴史を持つコニカミノルタが、次にどのような姿に「変わる」のかが注目される。

関連項目

成功の鍵

1

「出島と本島の対話」による事業開発

経営層にはファクトベースの説明、既存事業部門には価値が固まってからの対話、顧客には提供価値の確認と、ステークホルダーごとにコミュニケーション戦略を使い分ける

2

画像IoTプラットフォーム「FORXAI」によるエコシステム構築

画像認識技術を核に、農業・医療・介護・工場・店頭マーケティングなど社会の現場に展開。パートナー企業90社超と共創

3

事業ポートフォリオの戦略的再構築

「強化事業」「収益堅守事業」「非重点事業」「方向転換事業」の4カテゴリに分類し、ベストオーナー視点で事業の選択と集中を実行

おすすめ書籍

情報の修正・追加を提案
登録して新規事業の最新情報を受け取る
NEWSLETTER

IntraStar NEWS

新規事業の事例・セミナー情報・スタートアップの資金調達情報を ほぼ毎週お届け。1,200名超のイントラプレナーが読んでいます。

Powered by Substack ・ いつでも配信停止できます