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用語集

コンバーティブルノート・SAFE — バリュエーション不要の転換型資金調達

シードステージのスタートアップが直面する資金調達の難点のひとつは、「まだバリュエーションを合理的に決められない」点だ。プロダクトも売上も乏しい段階で株価を交渉すると、創業者は過度な希薄化を、投資家は過大評価リスクを抱え込む。コンバーティブルノートとSAFEはいずれも、「今すぐ株価を決めなくてよい」という設計思想から生まれた転換型調達手段だ。

コンバーティブルノートの仕組み

コンバーティブルノート(Convertible Note)は、投資家が企業に一時的な「貸付」を行い、将来の株式ラウンド(適格ファイナンス)成立時に株式へ転換することを前提とした転換社債だ。法的には負債であるため満期日と利率の設定が必要で、満期までに適格ファイナンスが成立しないと元本+利息の返済が求められる。

転換価格は**キャップ(Valuation Cap)ディスカウント(Conversion Discount)**の2メカニズムで調整する。キャップは転換時バリュエーションの上限を定め、次ラウンドのバリュエーションがキャップを超えてもノート保有者はキャップ水準の単価で株式を取得できる。

ディスカウントは次ラウンド発行価格から通常10〜25%を割り引いた価格での転換権だ。両方が定められている場合は投資家に有利な方が適用される。

SAFEとJ-KISSの設計思想

SAFEは2013年にYCombinator(米国のスタートアップアクセラレーター)が発表した標準書類だ。コンバーティブルノートから負債性を取り除き、将来の株式を受け取る権利のみを規定した合意書として設計された。利率・満期日がなく、株式ラウンドの成立時に自動的に転換するため、満期不到来による弁済リスクが原理的に発生しない。

SAFEは株式でも社債でもない契約権利として分類されるため、日本の会社法下では直接適用できない。このため500 Startups Japan(現Coral Capital)が2016年に整備・公開したJ-KISS(Japanese KISS)が普及している。

J-KISSは法的実体を「新株予約権の発行」とすることで日本の会社法に準拠させた設計だ。利率・満期日なし・弁済リスク原理上なし、という点ではSAFEと同等の設計思想を持つ。コンバーティブルノートは法的には負債であり年2〜8%の利率と12〜24ヶ月の満期を設定するのが一般的だ。

主要設計条件

バリュエーション・キャップの水準は、シードの先行リスクに対する対価として決まる。日本のシードステージでは1〜10億円の範囲が多いが、市況・業種・チームの評価により幅がある。

適格ファイナンスの閾値(例:3億円以上の株式ラウンド)は転換タイミングを決定する重要条件で、閾値が高すぎると転換が長期間実現せずノート保有者が宙吊りになるリスクを抱える。プロラタ権(Pro-rata Rights)は次ラウンド以降の持分維持を可能にする追加投資権利で、SAFEやJ-KISSに条件付きで組み込まれる。

大企業CVCとカーブアウトとの接点

大企業CVCがシードステージに投資する場合、バリュエーション交渉を省略できるJ-KISSは実務上の簡便さから採用される事例が増えている。カーブアウトで分社したスタートアップが外部資金を受け入れる際も、バリュエーション確定を次の本格ラウンドまで先送りできるJ-KISS型が選ばれるケースがある。

キャップ・ディスカウント・転換条件の組み合わせ次第で創業者への希薄化インパクトは大きく変わるため、Series A準備の前提として積み上がった転換条件を把握するキャップテーブル管理が不可欠となる。

関連項目

参考文献・出典

  • Y Combinator “Safe Financing Documents” https://www.ycombinator.com/documents/
  • Coral Capital「J-KISS — 誰もが自由に使えるシード投資のための投資契約書」https://coralcap.co/j-kiss/
  • 経済産業省「スタートアップへの投資等に関する契約のひな形」(産業革新投資機構 INCJ 協力)https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/index.html
  • Brad Feld & Jason Mendelson『Venture Deals』(Wiley, 2019, 4th ed.)— Convertible Debt章
  • 日本ベンチャーキャピタル協会「投資契約・タームシートガイドライン」(2024年版)

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