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事業事例

次世代エアモビリティ ― 日本航空が挑む「空飛ぶクルマ」とドローン配送の社会実装

事業・会社概要
事業会社
日本航空
業界
航空・交通・インフラ
設立/開始
1951年
開始年
2020年
代表者
鳥取 三津子
資本金
1,813億円
本社
東京都品川区
コーポレートサイト
www.jal.com

History & Evolution

2020

エアモビリティ創造部を新設

次世代エアモビリティの社会実装を専門に推進する部署を設置

2022

Volocopter社との提携発表

独Volocopter社と提携し、エアタクシーの日本導入に向けた取り組みを本格化

2023

離島ドローン配送の実証実験を拡大

長崎県・鹿児島県などの離島でレベル4飛行を視野に入れた医薬品配送の実証を反復

2024年2月

奄美・瀬戸内町で「島の暮らしを支える」ドローン事業を開始

平時の配送網が災害時には状況把握や緊急物資輸送に転用できるフェーズフリーモデルを日本で初めて実現。

2025年

大阪・関西万博の空飛ぶクルマ運航事業者に選定

ANAホールディングス・丸紅・SkyDriveとともに運航事業者に選ばれ、会場ではイマーシブシアター「そらクルーズ」を出展した。

2025年6月

あいちモビリティイノベーションプロジェクトに採択

離島でのドローン物流実証事業に採択。2026年度以降の事業化に向けた課題の洗い出しとサービス設計へ進む。

2025年9月

大阪府・市/住友商事との連携を発表

空飛ぶクルマの商用化に向け、2027年の運航開始を見据えた基盤整備で連携する。

2026年

「そらクルーズ」の常設化

2月に大阪港バーティポートへ開設、6月29日には羽田のJAL SKY MUSEUMで常設展示となった。運航開始前から需要と受容性を育てる導線として機能している。

課題・背景:「空の移動革命」という未踏の領域

日本の空のインフラを牽引するメガキャリアである日本航空株式会社(JAL)が推進する、中長期的な一大イノベーション・プロジェクトが 「次世代エアモビリティ事業」 である。

既存の「大型航空機による都市間の長距離大量輸送」という成熟した事業モデルから一歩踏み出し、ドローンや「空飛ぶクルマ(電動垂直離着陸機:eVTOL)」を用いて、 「地域内の短〜中距離のパーソナルな移動や物流」 という新しい空の社会インフラを築くことを目的としている。

「エアモビリティ創造部(佐久間嶺央らが所属)」が中心となり、2025年以降の社会実装を目指して活動を進めている。

サービス・事業の仕組み:プラットフォーマー戦略

この事業の最大の特徴は、 「自社で機体を作らない(プラットフォーマーに徹する)」 という点にある。

JALは、機体開発そのものは独Volocopter社等の海外スタートアップや国内の機体メーカーに委ねる一方、メガキャリアとして70年にわたり培ってきた 「安全運航管理のノウハウ」「整備技術」「パイロットのトレーニング体制」「ブランドの信頼」 を最大の強みとして提供している。

「空路の確保や運航管理は、地上とは比較にならないほど高度な安全性と技術が求められる。JALはその知見を『空のMaaSプラットフォーム』として社会に実装する」

――JALエアモビリティ事業の取り組み(JAL公式サイト)

具体的には、以下のような取り組みを推進している。

  • ドローンによる医療・物流実証: 過疎地や離島において、自治体と協力し、医薬品や日用品をドローンで定期搬送する実証実験を反復。
  • 空飛ぶクルマの運航スキーム構築: 2025年の大阪・関西万博を見据え、エアタクシーの離着陸ポート網の整備や、予約・運航を一元管理するプラットフォームの構築を推進。

成果と現状:離島の社会課題解決から事業化へ

既に複数の離島(長崎県や鹿児島県など)において、 レベル4飛行(有人地帯における目視外飛行) を視野に入れたドローンでの医薬品配送などの実証試験を重ねており、「空を通じた地方の社会課題解決(買い物難民・医師不足)」の有効性を社会的ファクトとして提示しつつある。

今後は、単なる実験フェーズから 「事業としての収益化」フェーズへと移行 していく。空飛ぶクルマの商用運航の実現に向け、法整備を進める国交省などの行政機関や、地上交通網を担う鉄道・タクシー会社、さらには観光地など、あらゆるステークホルダーを巻き込んだオープンイノベーションが求められている。

万博の後に残ったもの(2025〜2026年)

2025年の大阪・関西万博で、JALはANAホールディングス・丸紅・SkyDriveとともに空飛ぶクルマの運航事業者に選定された。会場ではイマーシブシアター「そらクルーズ」を出展し、次世代モビリティの体験を来場者に提示している。

注目すべきは、万博が終わった後の動きである。「そらクルーズ」は2026年2月に大阪港バーティポートへ開設され、同年6月29日には羽田のJAL SKY MUSEUM で常設展示となった。空飛ぶクルマの商用運航はまだ始まっていない。にもかかわらず、体験できる場所を先に常設化している——機体が飛ぶ前に、乗りたいと思う人を育てておくという順序である。

規制産業の新規事業では、認可が下りた瞬間に需要が湧くわけではない。JALは大阪府・大阪市・住友商事との連携で2027年の運航開始を見据えた基盤整備を進めており、その間の空白を受容性づくりに使っている。

ドローン側も実証から事業化へ進んでいる。2024年2月には奄美・瀬戸内町で「島の暮らしを支える」ドローン事業を開始し、平時の配送網を災害時の状況把握・緊急物資輸送に転用できるフェーズフリーモデルを日本で初めて実現した。2025年6月には「あいちモビリティイノベーションプロジェクト」の離島ドローン物流実証事業に採択され、2026年度以降の事業化に向けて住民ニーズに即したサービス設計の検討が進んでいる。

この事例から学べること

JALの次世代エアモビリティ事業は、大企業が新領域に参入する際の「アセット活用型イノベーション」の好例である。

第一に、「自社の強みを正しく定義し、プラットフォーマーに徹する」という戦略の有効性である。 JALは機体開発には手を出さず、70年の安全運航ノウハウという代替不可能なアセットに集中している。新規事業において「何をやらないか」を決めることは、「何をやるか」以上に重要な意思決定である。

第二に、「社会課題起点のアプローチ」が規制産業での事業化を後押しする点である。 離島の医療・物流という切実な社会課題から実証を始めることで、行政の理解と協力を獲得しやすくなった。規制の壁が高い領域では、技術起点ではなく課題起点で入ることが突破口となる。

第三に、「エコシステム構築力」が未来のインフラを左右する点である。 JALは空の上の移動手段提供にとどまらず、街づくり(スマートシティ)そのものを空から統合する「総合モビリティ・プラットフォーマー」への変革を目指している。多様なステークホルダーとの共創なくして、社会インフラの構築は成し遂げられない。

第四に、認可待ちの時間を需要づくりに充てるという発想である。 万博後に体験施設を常設化した判断は、運航開始までの数年を「待つ期間」ではなく「顧客をつくる期間」として使うものだ。規制産業の新規事業は、事業計画上どうしても長い空白期間を抱える。その間に社内の熱量も社外の関心も冷める——ここで何をしておくかが、認可が下りた日のスタートラインを決める。

関連項目

参考文献・出典

成功の鍵

1

プラットフォーマー戦略による参入障壁の構築

自社で機体を作らず、安全運航管理・整備・訓練のノウハウを提供するプラットフォーマーに徹するアセット活用型の戦略

2

社会課題起点の実証による規制緩和の後押し

離島の買い物難民・医師不足という社会課題から入ることで行政の理解と協力を獲得し、事業化への道を切り拓いた

3

エコシステム構築力で未来のインフラを設計

行政・鉄道・タクシー・観光など多様なステークホルダーを巻き込み、空の移動を社会インフラとして定着させるオープンイノベーションを推進

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