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事業事例

INHOP ― キリンHDの研究者が挑んだ、ホップ健康素材事業の軌跡

サービス終了 食品 / ヘルスケア #ヘルスケア #研究開発 #合弁事業 #食品
事業・会社概要
事業会社
キリンホールディングス
業界
食品 / ヘルスケア
開始年
2019年
代表者
金子 裕司
本社
東京都渋谷区
サービスサイト
inhop.co.jp
コーポレートサイト
www.kirinholdings.com

History & Evolution

2019

INHOP株式会社設立

キリンホールディングスと電通が合弁でINHOPを設立。ホップの健康価値を広く普及させるプラットフォーム構築を目指す。

2020

BtoC商品の展開開始

「ホップイングミ」「ホップインチョコ」など、熟成ホップエキス配合の消費者向け商品を発売。

2021

機能性表示食品「ホップ効果」発売

体脂肪と認知機能のW機能を訴求する機能性表示食品を発売。ファンケルとの共同開発も推進。

2023

事業をキリンHDに譲渡

4月、健康食品等の通信販売事業および素材販売事業をキリンホールディングスに事業譲渡。

2024

INHOP株式会社解散

3月22日をもって会社を解散。事業自体はキリンHDが「キリン INHOP SHOP」として継続。

ビール原料「ホップ」に秘められた健康価値

ホップはビール醸造に欠かせない原料として広く知られているが、その健康効果に着目する消費者は多くない。キリンホールディングスは 20年以上 にわたりホップの機能性研究を続け、体脂肪低減効果や認知機能改善効果など、ビール製造以外の可能性を探ってきた。

しかし、研究成果を事業に転換する道のりは平坦ではなかった。従来のホップは 苦みが強すぎて、ビール以外の飲料や食品に使用しづらい という根本的な課題があった。さらに、消費者にとってホップは「ビールの原料」というイメージが固定しており、健康素材としての認知はほぼ皆無であった。

研究者が自ら事業の担い手となった異例の挑戦

INHOPの立ち上げを主導したのは、2009年にキリンに入社した研究員の金子裕司である。熟成ホップエキスの研究開発に携わる中で、苦みを 10分の1 に抑える技術を確立し、食品やサプリメントへの応用を可能にした。

「研究者として論文を書くだけでなく、自分の研究成果を社会に届けたかった。研究室を出て事業を創ることが、ホップの価値を最大化する唯一の道だと確信した」

――ホップに惚れ込んだ研究者の新規事業立ち上げ奮闘記(Incubation Inside)

2019年、キリンホールディングスと電通が合弁で INHOP株式会社 を設立。キリンが研究・開発を、電通が消費者への訴求やブランディングを担うという 明確な役割分担 のもと、ホップの健康価値を広く普及させるプラットフォームの構築を目指した。

BtoBからBtoCへのピボット

当初、INHOPは熟成ホップエキスを食品メーカーや化粧品メーカーに素材として供給する BtoBモデル を想定していた。しかし、市場調査で「ホップ」の健康素材としての認知度がほぼゼロであることが判明し、戦略の転換を余儀なくされた。

そこでINHOPは、消費者に直接訴求する BtoC商品 から認知を広げる戦略に切り替えた。「ホップイングミ」「ホップインチョコ」などの手軽に摂取できる商品を開発し、ホップの健康価値を体験してもらう入口を作った。

2021年には、体脂肪低減と認知機能改善という 2つの機能性を同時に訴求 する機能性表示食品「ホップ効果」を発売。キリン独自の健康素材「熟成ホップエキス」を配合した画期的な商品であった。また、ファンケルとの共同開発では角栓除去機能を確認するなど、ヘルスケア以外の領域への応用も模索した。

コロナ禍の逆風と事業譲渡

しかし、INHOPの事業は順調とは言い難い状況が続いた。コロナ禍により当初想定していた販路(大学生協、塾など)が消失し、急遽EC販売への転換を迫られた。また、 機能性表示食品の届出手続きが当初計画より大幅に遅延 し、商品展開のスケジュールに影響を与えた。

2023年4月、INHOPの健康食品通信販売事業および素材販売事業は親会社であるキリンホールディングスに 事業譲渡 された。そして2024年3月22日、INHOP株式会社は 解散 に至った。ただし、事業そのものはキリンHDが「キリン INHOP SHOP」として運営を継続しており、熟成ホップエキスの研究開発と商品展開は途絶えていない。

この事例から学べること

第一に、「合弁会社」という器の限界と可能性の両面である。 キリンと電通という異業種の合弁は、研究力とブランディング力の掛け算として合理的な設計であった。しかし、合弁会社は親会社の戦略変更や市場環境の変化に対する柔軟性が低い。事業が軌道に乗る前に合弁の枠組み自体が足枷になるリスクは、新規事業における合弁モデルの構造的な課題である。

第二に、研究者が事業家に転身することの強みと難しさである。 金子は20年以上の研究知見を武器に事業を構想できたが、研究の深さが「市場の認知度がゼロ」という現実とのギャップを生んだ。技術起点の事業開発において、ピボットの速度と市場教育のコストをどう見積もるかは、成否を分ける重要な判断である。

第三に、事業が「解散」しても知見と資産は残るということだ。 INHOPという会社は解散したが、熟成ホップエキスの技術、ブランド、顧客基盤はキリンHDに引き継がれている。新規事業の評価を「会社の存続」だけで測るのではなく、親会社に還元された知見や技術資産を含めて総合的に判断する視点が求められる。

関連項目

成功の鍵

1

20年の基礎研究を事業化に転換した実行力

長年の研究蓄積を「苦味1/10の熟成ホップエキス」という商品化可能な素材に昇華させた研究者主導の事業開発。

2

異業種合弁による役割分担の明確化

キリンが研究・開発、電通がブランディング・コミュニケーションという明確な役割分担で合弁会社を設計。

3

BtoB→BtoCへの戦略的ピボット

ホップの認知度の低さに直面し、消費者向け商品から認知を広げる戦略に転換した柔軟性。

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