建設業界の「2024年問題」と変革の旗印
「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」は、日本の代表的な総合建設会社である清水建設株式会社が、東京都江東区潮見に2023年より順次開設した、 総延床面積約9万平米 にも及ぶ巨大なイノベーションおよび人財育成の横断拠点である。
建設業界は、資材高騰、慢性的な職人不足、長時間労働の是正といった「2024年問題」に直面しており、「現場での力技」に依存した請負ビジネスモデルは岐路に立たされている。この現状を打破し、清水建設を 「スマートイノベーションカンパニー」 へと変革させるための全社的フラッグシップとして建設されたのが本施設である。
岩城和幸が所属するNOVAREプロモーションユニットなどが、この施設を「自社ビルの研修所」で終わらせないための運営を担っている。
「自前主義」からの脱却 ― ゼネコン初のオープン共創施設
NOVAREは、「情報・人流」「技術」「歴史」の3つの要素を複合した5つの施設群(本館、アーカイブス、研修センター、技術研究所、モックアップ検証棟)から成る。
最大の革新は、 「自社の技術やアセットを、戦略的に社外へ『開放』したこと」 にある。「自前主義・秘密主義」が根付くゼネコンの歴史において、ここまでオープンな共創施設を設けた例は少ない。
「『コンダクター』と呼ばれる専門のハブ人材が常駐し、外部の異分子と内部の重厚な技術力を混ぜ合わせる、生きたイノベーション・プラットフォームとして機能している」
- スタートアップ・起業家: AI・ロボティクス・サステナブル素材を持つ企業に対し、建築現場に近い実証フィールドを提供し共同で技術検証。
- 学生・若手クリエイター: インキュベーションプログラム(ASIBA等)の拠点として開放。大企業の技術者と若手のアイデアを掛け合わせる。
- 異業種企業: まちづくりに関わる通信会社やモビリティ企業との協業の場として活用。
社員のマインドセットを変えた「共創体験」
オープン以来、毎日のようにワークショップや事業ピッチ、実証実験の壁打ちが行われており、外の「異分子」と内の「重厚な技術力」が混ざり合うプラットフォームとして機能し始めている。
社員の意識も劇的に変化しつつある。これまでは 「自分たちの技術を守り、完璧な建物を建てること」 が至上命題であったが、NOVAREでの共創体験を通じて 「外部の未完成なテクノロジーを自社の現場に実装して、社会課題を解決する」 という事業プロデュース的な視座を持つ社員が増えた。
清水建設は、このNOVAREで生まれた技術を、実際の社会実装という次のフェーズへと進めていく。
この事例から学べること
NOVAREの事例は、「自前主義」の強い伝統産業がオープンイノベーションに転換する際の設計指針を示している。
第一に、「場」の力によって組織変革を加速できるという点である。 NOVAREは単なるオフィスや研修所ではなく、社員が日常的に外部のスタートアップや学生と交わる「共創の磁場」として設計されている。制度やスローガンだけでは変えにくい組織風土を、物理的な「場」の設計によって変革している。
第二に、「開放する勇気」が自社のアセットの価値を最大化する点である。 秘密主義が常識とされてきたゼネコン業界において、自社の技術資産を外部に開放するという判断は容易ではない。しかし、閉じた技術は進化が遅い。外部の未完成な技術と自社の成熟した技術を掛け合わせることで、イノベーションの速度が飛躍的に向上する。
第三に、「コンダクター」という専門人材の存在が共創の成否を左右する点である。 異なるバックグラウンドを持つプレイヤーを単に同じ場所に集めるだけでは、イノベーションは生まれない。プレイヤー間を能動的に接続するハブ人材の配置が、「場」を「プラットフォーム」に昇華させている。


