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用語集

クローバック条項|創業者株式没収トリガーと設計指針

クローバック条項(Clawback Provision) とは、すでに付与・行使・交付された株式や報酬を、特定のトリガーイベントが発生した場合に会社・既存株主が回収する権利を規定した契約条項である。「Recoupment Clause(回収条項)」「Forfeiture Clause(没収条項)」とも呼ばれる。上場企業では役員報酬のクローバックが法規制の対象となる国が増えているが、スタートアップにおいては株主間契約・創業者株式に関する条項として独自の文脈で活用される。

スタートアップにおけるクローバック条項の機能

スタートアップのクローバック条項は主に以下3つの目的で設計される。第一に 創業者やキーマンの離脱・競業禁止違反を抑止 するため。第二に 不正行為・虚偽申告があった場合の救済手段 を確保するため。第三に 業績目標未達時に付与した報酬の実質的価値を調整 するためである。


主要トリガー類型

1. 競業禁止違反(Non-compete Breach)

最も頻出するトリガーだ。創業者やCXOが退職後に 競合他社へ転職または競合事業を設立した場合、ベスティング済みの株式の一部または全部を会社が買い取る(または没収する)権利を発動する。

買取価格は通常「払込価格(Par Value)」または「低価格(Nominal Price)」で設定されるため、実質的には没収に近い経済的打撃を与える。問題は 日本法における競業禁止条項の有効性 が限定的な点だ。裁判例では禁止期間・地域・対象業務が合理的範囲を超えると無効とされるケースがあり、クローバックとセットで設計しても法的執行力に疑問が残る場合がある。

このため実務では「競業禁止違反時のクローバック」は 欧米子会社向け契約や外国籍メンバーとの契約 で機能しやすく、純粋な日本法人での設計には専門家の確認が必須となる。

2. 不正行為・虚偽申告(Fraud / Misrepresentation)

創業者またはキーマンが 財務諸表の虚偽記載、投資家への虚偽説明、重大なコンプライアンス違反 を行った場合のトリガーである。このトリガーは法的有効性が高く、不正行為の立証ができれば裁判所も没収を認める可能性が高い。

米国SEC(証券取引委員会)は上場企業に対してSarbanes-Oxley法・Dodd-Frank法に基づく役員報酬クローバックを義務付けており、この規制の影響がVC投資契約にも波及している。日本では金融商品取引法の改正議論の中でクローバック義務化の是非が検討されているが、2026年時点では法的義務化には至っていない。

3. 業績目標未達(Performance Failure)

事前に設定したMBO(Management by Objectives)やKPIを達成できなかった場合 に株式付与額を調整するトリガーである。特に大企業がカーブアウトした子会社の経営陣に対するインセンティブ設計で活用されることがある。

設計の難しさは 業績不達の責任所在 にある。市場環境の悪化や親会社の方針変更が原因の業績不達にまでクローバックを適用すると、経営陣のリスクテイクを過度に抑制する副作用が生じる。このため 「当人の意図的不作為・重大な過失」に限定した発動条件 を設けることが望ましい設計とされる。

4. Creator’s Deductibility(知的財産の帰属違反)

スタートアップ特有のトリガーとして、創業前または在職中に 会社に帰属すべき知的財産を個人名義で登録した場合 がある。特許出願・著作物登録の帰属について、創業者との間で明確な取り決めがない場合に問題が顕在化する。

投資家が調査(デューデリジェンス)で知財帰属の問題を発見した場合、既存の株式付与の正当性に疑義が生じ、クローバック条項の適用が交渉される事例もある。


設計指針:投資家と創業者の交渉ポイント

トリガー範囲を絞る

クローバック条項は広くすればするほど採用競争力を下げる という現実がある。優秀な人材は複数のオファーを比較検討するため、クローバックトリガーが過度に広い企業は選ばれにくい。特にシード・シリーズAでは、将来のリスクを理由に広範なクローバックを設定することよりも、 信頼関係に基づいたチーム構築 の方が優先されるべきとする考え方が有力だ。

段階的没収(Graduated Clawback)

株式の全没収ではなく、 ベスティングスケジュールに連動した段階的な没収 を設計する方法がある。例えば「退職後3年以内の競業禁止違反は未ベスト分の50%のみ没収」とすることで、一定の抑止力を保ちながら過度なペナルティを避けられる。

買取価格の設定

没収に近い「払込価格での買戻し」ではなく、 独立した第三者評価(フェアバリュー)での買戻し を原則とする設計は、トリガー発動後の紛争リスクを下げる。投資家側には不満が残るが、創業者との長期的な信頼関係コストを勘案すれば合理的な選択肢となる場合がある。

時効・適用期間の限定

クローバック権の行使可能期間(Look-back Period)を 3〜5年に限定 することで、永続的なリスクエクスポージャーを避ける設計が標準的だ。米国のDodd-Frank規則では3年間のLook-backが義務付けられており、これが実務上の参照基準になっている。

関連項目

参考文献

  • Brad Feld & Jason Mendelson『Venture Deals』(Wiley, 2019, 4th ed.)
  • US SEC「Listing Standards for Recovery of Erroneously Awarded Compensation」(Dodd-Frank Act, Final Rule, 2022)
  • 日本ベンチャーキャピタル協会「株主間契約モデル条項集」(2023年版)
  • 経済産業省「人材確保型スタートアップ支援施策に関する研究会報告書」(2024年)

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