課題・背景
大東建託は賃貸住宅の建設・管理を主力とする大手不動産企業である。しかし、国内の新設住宅着工戸数は 人口減少に伴い長期的な縮小トレンド にあり、既存事業の成長だけでは中長期的な収益基盤の維持が困難な状況にあった。
同時に、 次世代の経営を担う人材の育成 も経営課題として認識されていた。現場の営業力に強みを持つ同社にとって、ゼロからビジネスを構想し実行する「事業家型人材」の層を厚くすることが、組織の持続的成長に不可欠であった。
取り組みの経緯
大東建託は2020年、全社員を対象とした社内ベンチャー制度「 ミライノベーター 」を創設した。部署・職種・勤続年数を問わず誰でもビジネスアイデアを提案できる公募型の制度である。
並行して「 新規事業創出アカデミー 」も開設し、事業計画の立て方や顧客検証の手法を体系的に学ぶ教育プログラムを整備した。審査には ユニコーンファームの田所雅之氏 が3期連続で審査員を務めるなど、外部の知見を積極的に取り入れている。
第7期目にあたる2024年度からは、グループパーパス「託すをつなぎ、未来をひらく」を体現する名称として 「HIRAKU」にリブランド 。ミライノベーターと新規事業創出アカデミーを統合し、制度の一本化を図った。
サービス・事業の概要
HIRAKUは、大東建託グループの 全社員を対象とした新規事業提案制度 である。制度設計の核心は、提案から事業化、そして経営参画までを一気通貫で支援する点にある。
提案が審査を通過すると、起案者は 専任の事業開発チームに異動 し、PoC(概念実証)に専念できる環境が与えられる。事業が黒字化した場合は 利益の一部が推進チームに還元 される仕組みが設けられており、社内起業家の経済的インセンティブを担保している。
さらに、事業化が実現した場合には 提案者がその事業の経営ポストに就任 する道筋が制度として整備されている。単なるアイデアコンテストではなく、将来の経営幹部を実践的に育成する「 人的資本経営のエンジン 」として位置づけられている。
成果と現状
ミライノベーター時代の第1期から第3期までに、支店・本社・グループ会社から 累計822件のエントリー が寄せられた。営業職から管理部門まで多様なバックグラウンドの社員が応募しており、全社的な挑戦文化の醸成に寄与している。
採択された事業の中には 黒字化を達成したプロジェクト も生まれており、事務局は「黒子に徹する」サポート姿勢で事業推進者の自律的な成長を促している。HIRAKUへのリブランド後は、 グループ全体の5ヵ年計画 における売上・利益目標の達成と人材育成の両立を明確に掲げている。
この事例から学べること
第一に、新規事業制度と人事制度を直結させた「キャリアパス設計」の重要性である。 異動・昇進・利益還元という具体的なインセンティブを制度化したことで、社員にとって新規事業への挑戦が「リスク」ではなく「キャリアアップの機会」に転換された。応募数822件という数字がその効果を証明している。
第二に、外部メンターの起用による評価の客観性確保である。 社内だけで審査すると既存事業の延長線上のアイデアが高評価を得やすい。外部の起業・投資の専門家を審査に組み込むことで、市場性の高いアイデアが正当に評価される仕組みを構築した。
第三に、制度の進化をパーパスと連動させたリブランディング戦略である。 「ミライノベーター」から「HIRAKU」への転換は、単なる名称変更ではなく、グループパーパスとの一体化を図った戦略的な再設計である。制度が組織の存在意義と接続されることで、経営層のコミットメントと社員の参加意欲が同時に強化される。


