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事業事例

ハウス食品グループ「GRIT」― 社員の「度胸」から始まる新規事業創出プログラムの設計思想

ハウス食品グループ本社株式会社
食品 #食品 #新規事業提案制度 #イントラプレナー
事業・会社概要
事業会社
ハウス食品グループ本社株式会社
業界
食品
開始年
2020年
コーポレートサイト
housefoods-group.com

History & Evolution

2020

GRITを開始

入社4年目以上の全社員を対象とした新規事業公募プログラムを、人材部門との共催でスタート

2020

第1期から2テーマを採択

「Kidslation」「タスミィ」の2事業が採択。いずれも育児中の社員による提案

2023

パッチワークキルト株式会社を設立

採択事業を移管・実証する専用子会社を設立。グループ外の評価基準で事業検証を加速

2023

4期目を迎え、制度が組織文化へ

新卒採用でGRITが動機付けに。グループ各社で独自プログラムが波及

2023

「街角ステージweldi」事業化

新規事業開発部がキッチンカーレンタルサービス「weldi(ウェルディ)」を事業として推進

課題・背景:新規事業部だけでは「窮屈」だった

大企業の多くが「新規事業開発」の専任部署を設ける。しかし専任部署の設置は、逆説的な限界も生む。社内のアイデアの多様性が、部署の壁の内側に閉じ込められるという問題だ。

ハウス食品グループ本社の新規事業開発部は、この問題に直面していた。部署発足から数年が経過するなかで、社内ヒアリングを通じて「新規事業開発部のメンバーではなくとも、さまざまなアイデアを持っている社員がいる」ことが判明した。新規事業開発部課長の井筒勇樹氏は当時の問題意識を次のように語っている。

「新規事業開発部に配属されたメンバーだけで、会社の次の新規事業を作っていくのも窮屈な話だよね、という考えがありました」

— 井筒勇樹(ハウス食品グループ本社 新規事業開発部課長)、東京ウォーカー取材(2023年8月)

机上での検討よりも、志を持つ社員が動いた方が精度の高い事業開発につながる。そのような仮説のもと、全社的な公募制度の設計が始まった。

取り組みの経緯:「度胸」を制度に埋め込む

2020年、ハウス食品グループ本社は新規事業創出プログラム「GRIT(グリット)」を開始した。プログラムの名称には明確な意図がある。「GRIT」の頭文字「G」は「Guts(度胸)」を意味する。

対象は入社4年目以上の全グループ社員。所属会社・部署を問わず応募できる開放型の制度設計であり、毎年10〜20件のエントリーが寄せられる。年間採択上限は2テーマ。経営層が最終選定を行う。

選考の核心はエントリーシートにある。問われるのは「起案のきっかけ・理由と想い」だ。磨き込まれたビジネスモデルよりも、起案への熱意と精神力(胆力)を見極めることを選考の主眼に置いている。新規事業の道程が長く険しいことを所与の前提とした設計思想である。

「新規事業を作るというのは簡単な話ではありません。長く険しい道程になるので、その人の起案にかける熱意や精神力・胆力を知りたいというのがあります」

— 井筒勇樹、同取材

GRITが採用された点でもう一つ際立つのは、人材部門との共催という構造だ。採択者は新規事業開発部に異動し事業化に進むが、人材部門と逐一情報を共有することで、キャリアパスの整合を保ちながら事業開発に集中できる体制を整えた。

サービス・事業の仕組み:プログラムの設計と運用

GRITの運用プロセスは5段階で構成される。エントリーシートによる書類選考から始まり、選考通過者によるアイデアの磨き込み、経営層による採択審査(年間最大2テーマ)、採択者の新規事業開発部への異動、そして事業化に向けた実証フェーズへの移行という流れだ。

チーム形成において外部人材の参加を明示的に奨励している点も特徴的だ。エントリー時点では1人であっても、想いを共有するメンバーを社内外から集めることを推奨する。社外ネットワークとの協働が事業開発の推進力になるという実態を、制度設計に織り込んでいる。

第1期には、それぞれ育児経験を持つ2人の社員が応募し、「Kidslation(キッズレーション)」と「タスミィ」という2事業を採択した。冷凍幼児食のサブスクリプションECと、保育園設置型の惣菜自動販売機という2事業は、経営層が「保育問題に取り組もう」と指示したものではない。社員一人ひとりの生活者視点から浮かび上がったアイデアが、制度を経て事業へと昇華した。

新規事業開発部が直接手がける事業も展開されている。「街角ステージweldi(ウェルディ)」はキッチンカーのレンタルサービスとして、飲食業界への参入障壁をなくし挑戦者を増やすことで食の多様性を広げる事業だ。

成果と現状:制度が組織文化に転化した

GRITは2023年時点で4期目を迎え、制度自体が組織文化として定着しつつある兆候が各所に現れている。

まずグループ内への波及だ。ハウスウェルネスフーズ、ハウスギャバンなどグループ各社で独自の新規事業プログラムやプロジェクトが始動した。井筒氏は「GRITが火付け役になったのではないか」と評価している。

次に採用・人材育成への影響だ。新卒採用のインターンシップで「ミニGRIT」を実施しており、応募資格の4年目を楽しみにしている若手社員も現れている。「新規事業開発をしたいから入社した」と語る社員が出るほど、GRITはハウス食品グループの採用競争力の一端を担う存在になった。

採択事業の面では、Kidslationとタスミィの実証主体としてパッチワークキルト株式会社が2023年に設立された。既存食品事業とは異なる評価基準とスピード感で事業検証を行う専用法人を設けた判断は、新規事業を「既存事業のP/L基準で死なせない」ための組織的施策である。

「GRITは”社員”から起案されるハウス食品グループの新しい未来です。経営層からではなくて、社員から未来がどう見えているのかというのがスタートになっている」

— 井筒勇樹、同取材

この事例から学べること

「全社公募」の本質的な意義は、アイデア量より情報の質にある。 新規事業開発部のみが担う体制では、全社員が持つ「生活者としての解像度」が事業シーズに転換されない。開放型の公募制度は、それ自体が「未活用の内部情報を掘り起こすシステム」として機能する。

「度胸(Guts)」を選考基準の核とする設計思想は、事業の長期生存率を高める合理的な判断だ。 新規事業の失敗確率は高く、事業化までの期間も長い。この構造的現実を前提とすれば、初期のビジネスモデルの洗練度より、起案者の執着心と精神的耐久力の方が生存変数として重要になる。エントリーシートで「想いと熱意」を問う設計は、この合理性に基づく。

人材育成との一体化が、制度の組織的持続性を支えている。 GRITを人材部門との共催プログラムとした判断は、新規事業開発を「事業機能」だけでなく「人材機能」の文脈に接続した。予算承認や採択後の人事調整がスムーズになるだけでなく、制度の存続根拠が「事業成果」一点に依存しなくなる。制度の息の長さを保証する構造的な工夫だ。

関連項目

参考文献・出典

成功の鍵

1

全社員を起案主体とする制度設計

新規事業開発部員に限らず全社員が応募できる開放型とした。「新規事業開発部だけで次の事業を作るのも窮屈」という問題意識が起点

2

「度胸」を起点とする熱意フィルター

エントリーシートで「起案のきっかけ・理由と想い」を問い、志と精神力(胆力)を選考基準に据える。アイデアの洗練より動機の純度を重視

3

人材育成との連携による組織的支持

人材部門との共催プログラムとすることで、事業開発と次世代経営人材育成を一体化。採択者の異動も人材部門との情報共有で円滑に対応

4

社内外ネットワークの積極的な活用推奨

外部の人材との協働を明示的に奨励。「外部の人とつながったほうがパワーが出る」と制度設計に組み込む

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