イノベーション(Innovation) とは、既存の要素の新しい組み合わせによって「未来の当たり前」を創出することである。技術革新に限定されるものではなく、ビジネスモデル、顧客体験、流通チャネルなど、あらゆる領域における変革を含む概念である。
多くの日本企業ではイノベーション=技術革新と誤解されがちだが、顧客起点の発想がなければ真のイノベーションは実現しない。以下では、イノベーションの正しい定義と4つのタイプの使い分け、そして顧客起点でイノベーションを設計する方法を解説する。
「技術革新=イノベーション」という誤解
「イノベーションを起こせ」と経営陣から号令がかかるが、そもそも イノベーションとは何かの定義 が社内で共有されていない。多くの日本企業では、イノベーション=技術革新と誤解されており、R&D部門や技術部門だけの仕事と認識されている。
しかし、イノベーションの本質は技術の進歩ではなく、 「未来の当たり前」を創出すること にある。技術は手段の一つに過ぎず、ビジネスモデル、流通、顧客体験の変革もイノベーションである。この根本的な誤解が、新規事業の方向性を技術偏重にし、 顧客不在のプロダクト を生み出す原因となっている。
世界最高性能のセンサーが市場で売れなかった理由
ある大手電機メーカーでは、年間R&D予算 500億円 を投じて世界最高性能のセンサーを開発した。技術的には競合を圧倒していた。しかし、そのセンサーを搭載した製品は市場で全く売れなかった。
顧客が求めていたのは「高性能」ではなく 「手軽さ」 だったのである。一方、競合の中国メーカーは性能で劣るセンサーを使いながらも、スマートフォンとの連携やクラウド分析サービスを組み合わせた「使いやすさ」で市場を席巻した。 技術革新はイノベーションの必要条件であっても十分条件ではない 。
顧客起点でイノベーションを設計する3つの方法
イノベーションの定義を再構築する :シュンペーターの「新結合」に立ち返り、イノベーションを「既存の要素の新しい組み合わせによって未来の当たり前を創出すること」と定義する。技術・ビジネスモデル・顧客体験・流通チャネルの全てがイノベーションの対象であることを社内に浸透させることが第一歩だ。
顧客起点でイノベーションを設計する :技術シーズからではなく、顧客の未充足ニーズからイノベーションを発想する。「現在の当たり前」への不満や違和感を起点に、「未来の当たり前」としてどのような体験を提供すべきかを逆算で設計する。
イノベーション・ポートフォリオを管理する :破壊的・持続的・漸進的・革新的の4タイプを理解し、自社のポートフォリオに応じた最適な配分を設計する。全リソースを一つのタイプに集中させず、バランスの取れた投資配分が持続的な成長を生む。
自社の成功パターンから得意分野を分析する手順
まず自社の過去10年間で最も成功した事業を3つ選び、「なぜ成功したのか」をイノベーションの観点で分析する。 技術革新、ビジネスモデルの革新、顧客体験の変革 のいずれが成功要因だったのかを分類するだけで、自社の強みのパターンが浮かび上がる。
この分析を通じて、自社が得意とする イノベーションのタイプ が見えてくる。そのうえで、現在の新規事業パイプラインが同じタイプに偏っていないかを確認し、必要に応じてポートフォリオの再構成を検討する。
大企業にとってのイノベーションは、スタートアップの模倣ではない。自社の既存アセット(顧客基盤・技術・販路・ブランド)を組み合わせ直すことで実現する「大企業型イノベーション」の強みを活かすことが、持続可能な新事業創出の鍵となる。
イノベーション・ポートフォリオの視点で重要なのは、「漸進的イノベーション(既存事業の改良)」が全体の70〜80%を占めることが多い現実を直視することだ。残りの20〜30%を「革新的・破壊的」なイノベーションに配分するという考え方が、3 Horizons(3つの地平線)モデルの基本的な考え方に通じる。この配分設計なしに「イノベーションを起こせ」という号令だけをかけても、組織は動かない。
イノベーションが「部門の仕事」から「経営の優先課題」に昇格した組織だけが、持続的に新しい価値を生み出せる。その昇格を促すのは、トップ自身がイノベーションの4タイプを正確に理解し、自社に必要な配分を決断する力を持つことだ。
技術偏重から脱却したい事業リーダーへ
イノベーションの正しい理解が特に重要なのは、新規事業戦略の策定を担う経営企画部門の担当者や、新規事業プログラムの設計・運営を行う イノベーション推進部門のリーダー である。
また、技術シーズ型の新規事業を推進しているが顧客獲得に苦戦しているR&D出身の事業リーダーにとって、 イノベーション=技術革新という思い込みからの脱却 は、事業成功への重要な転換点となる。
4タイプの違いを理解して戦略を選ぼう
まずは破壊的イノベーション、持続的イノベーション、革新的イノベーション、漸進的イノベーションの4タイプの違いを正確に理解しよう。
そのうえで、自社の新規事業がどのタイプに該当するかを分類し、各タイプに適したマネジメント手法を選択する。ディスラプトの概念も合わせて学ぶことで、既存市場への参入戦略と新市場の創出戦略を使い分けられるようになる。
参考文献
- OECD「Oslo Manual 2018」イノベーションの定義(英語) — https://doi.org/10.1787/9789264304604-en
- 経済産業省「イノベーション政策の推進」 — https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/innovation.html
関連項目
関連用語
→ 用語の簡潔な定義は イノベーション(用語集) を参照